2024年04月23日

月刊PR誌『機』2024年4月号 巻頭「ガレアーノ『収奪された大地 』新装新版刊行」

 

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社主の出版随想

▼現在、本を生業としている業界が立ち行かなくなってきている。売上げを見ても、四半世紀前の最盛期の40%近くに落ち込み、書店数も、二分の一に減少している。教養書で、初版3000部が1500部に、学術書でも1000部が500部といった具合いだ。現今の日本の経済状態では、容易に定価を上げることはできず、売上げがジリ貧状態を続けている。
▼小社も“少部数高定価”路線で、ロングセラーを軸に出版活動を続けてきたが、この10年、5000円以上の高定価本にブレーキがかかってきた。その理由は、読書人の高齢化や購買者の経済事情が許さなくなったなど色々考えられる。「知の再生産」が段々出来なくなってきたということだ。かつては、大新聞等で書評されると、本の動きに大きな影響があったが、現在では、それもあまり期待できない。大新聞は購読者の激減に電子をはじめ色々な対応をしているようだ。近い将来、紙面は失くなるとか?
▼書物は、物として“知”を蓄積する重要な役割を果たしてきた。本という物で、われわれの知性、理性は育まれてきたように思う。カバーデザインや装丁から始まって、中身の体裁に至る所すべてが、われわれのからだに記憶として残っている。書物を通して学んだことは少なくない。20歳前後の人生の多感な時に読書を体験しなかったら、その後の人生は?と考えてしまうのは拙一人ではあるまい。かつて「書物と人生」という本も沢山あった。先人の遺してくれた書物は、われわれにとって大切な知的財産なのだ。
▼小社は、そういう先人が遺してくれた仕事をまとめた全集、著作集、コレクション、セレクションなどのシリーズから単行本に至るまで、三十有余年書物を出版してきた。現状を見ていると、この国は滅亡する道を辿っていると思わざるをえない。今問われていることは、歴史・社会・文化すべてにおいて、従来常識と思われていたことに対する問い直しである。
▼若者に期待したい。自分の興味がある分野の何でもいい。毎日1時間でも、書物に向き合う時間を作ってもらいたい。1年続ければかなりの成果は出るはずだ。数年続けたらきっと何かを摑める、と思う。(亮)

4月号目次

■〈本書を推す〉ラテンアメリカ史の決定版
斎藤幸平 「搾取か、収奪か」

■「感性の歴史家」による風の歴史
A・コルバン 「風の歴史」

中村桂子 「人間の可能性を信じて」

■『金時鐘コレクション』第五巻(「光州詩片」他)を読む
佐川亜紀 「民主化運動への連帯と自責」

■後藤新平がつくっていた劇曲『平和』初上演
久米正雄伏見岳人(解説・訳) 「一刻も早く『平和』の実演を」

黒田杏子 「特別の一行 『石牟礼道子全句集』新装版」

〈連載〉山口昌子 パリの街角から16「永遠のブーム・日本のMANGA」
    田中道子 メキシコからの通信13「注目される大統領選挙」
    宮脇淳子 歴史から中国を観る52「『三国志』「魏志倭人伝」
    鎌田 慧 今、日本は60「生きるための平和主義」
    村上陽一郎 科学史上の人びと13「スペンサー」
    小澤俊夫 グリム童話・昔話13「お年寄りたちにとっての昔話」
      方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える35「森鷗外『カズイスチカ』と医療思想」
    黒井千次 あの人 この人13「電車の中の人」
    山折哲雄 いま、考えること13「ハイチ・歯舞・大阪」
    中西 進 花満径97「堆積された大地」

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