2024年02月21日

月刊PR誌『機』2024年2月号 巻頭「仏でE.トッド『西欧の敗北』、J.ボー『ロシアの戦争技法』2024年1月同時出版」

 

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社主の出版随想

▼2月に入って、東京も今年初めて雪に見舞われた。ふだん雪のない地は、少しの雪でも交通はじめ色んなことがストップする。1月下旬、札幌から北へ1時間ほどの奈井江町を訪れた。もう3、4回になるが、こんな雪深い時ははじめてだ。この町で父親の代から100年、医院を開業してこられた、今年98歳になられる方波見康雄氏にお会いするためだ。十余年をかけて出来あがった氏の医療の集大成を持参して。にこやかな笑顔で、氏と御奥様に迎えられ、シャンパンでお祝いした。
▼氏は、1926年8月に空知郡奈井江町で生まれた。北海道帝国大学予科医類に入学され、卒業後、病理学第一講座でがん免疫の研究を、引き続き内科学第一講座で一般内科学、呼吸器内科学を修められた。59年4月、父の医院を継ぐことになり、その後地域医療に尽力する。83年には、奈井江町に「痴呆性老人の家庭介護セミナー」を開設され、90年には、北海道医師会賞、北海道知事賞を受賞され、日本死の臨床研究会の札幌大会長も務められた。93年には、全国的に前例のない病床や高齢者施設の「開放型共同利用」を提言、具体化される。町民が選択したかかりつけ医による生涯継続の医療、および保健と医療と福祉の連携である。
▼「医療とは、病を患う人のいのちの声に耳を傾けることである」という氏の詩に、心を奪われてから早や10年経った。後になって聴いたことだが、石牟礼道子さんの処女作『苦海浄土』が出版されるや夢中で読み、医者としてもどうしてもお会いしたいと思われ、後年、1人で石牟礼さんの施設を訪れたとも伺った。石牟礼さんとは、同学年。ちょうど、『石牟礼道子全集』が完結(2014年)した頃のようだ。
▼新著の副題に「音・科学そして他者性」とある。
 終章の中で「医療はそもそもの歴史が、病に苦しむ者に思わず手を差し伸べようとする人間本来の情意、つまり他者の苦しみや悲しみへの共感と想像力という普遍的な人間性――『他者性』の認識に由来しているからです。人はすべて、『他者ありて私は誰かの他者になる』(折出健二)という生きものなのですから」と書かれている。
 なかなかこういう認識を持つ医療関係従事者も多くはないかもしれぬが、これから「高齢化社会」を迎えるわが国で、この「他者性」という言葉を大切な拠り所として社会を構築してゆくべきではなかろうか。(亮)

2月号目次

■仏でE・トッド、J・ボーの新著、2024年1月同時刊
荻野文隆 「『西欧の敗北』、『ロシアの戦争技法』」

■各国の政界・財界・文化界の人びととの交友録
小倉和夫 「フランス大使の眼でみたパリ万華鏡」

■内発的発展論を深化させた“水俣”との出会い
杉本星子 「鶴見和子と水俣」

■〈金時鐘コレクション〉全12巻 第9回配本
細見和之 「金時鐘の詩業の世界的意味」

〈連載〉山口昌子 パリの街角から14「仏新首相は新記録保持者」
    田中道子 メキシコからの通信11「「第四の改革」の財政」
    宮脇淳子 歴史から中国を観る50「モンゴル帝国時代に蒸留酒を知る」
    鎌田 慧 今、日本は58「死刑を選ばされた裁判員」
    村上陽一郎 科学史上の人びと11「ゴルトン」
    小澤俊夫 グリム童話・昔話11「南ドイツの謝肉祭2」
      方波見康雄 「地域医療百年」から医療を考える33「バロック期の文化と医療」
    黒井千次 あの人 この人11「トーフ屋のシゲちゃん」
    山折哲雄 いま、考えること11「河上夫妻―相聞のうた」
    中西 進 花満径95「目の話(12)」

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